香りの本場フランスよりお届け♪ 香水の魅力とパリの香水博物館
私が暮らすフランスは、香水の発祥地として名高い国。世界中で人気の高級メゾンはこぞって、フランスで香水を作ります。著名なディレクターや調香師はなぜ、フランスを舞台に選ぶのか。数あるメゾンパルファムの一つ、フラゴナール香水博物館にてなかなか知ることのできない香水の歴史の真実と、フランスにおける情熱的な香水作りの魅力をご紹介したいと思います。
2019年04月18日更新
記事の目次
[1]香水の起源って?
古くは古代エジプトで香料は作られていました。
ミイラの保存、あるいは宗教的な意味合いもあり古代では“宇宙”と繋がるために香料を使っていたのだとか。
そしてその文化は、地中海を渡り、紀元前1850年頃にはギリシャで最古の香料の製造跡地が発見されています。
その後ローマ帝国時代には薬効のあるハーブなどを調合して薬としても用いられていましたが、16世紀のイタリア・ルネサンス期になると蒸留技術が進化し香水となります。
当時発展途上国だったフランスにいち早くイタリア文化を広めたのがメディチ家の裕福な女性カトリーヌでした。
時代とともに芸術やファッションの本場は徐々にフランスへと移動し、香水文化も同様にフランスで開花することになります。
ルイ14世が造営したヴェルサイユ宮殿は実はトイレが少ないことで有名で、香水好きだった彼の計らいもあり宮殿では香水を多用したそうです。
そこで貴族達に注目されたのが南仏グラース。グラースは当時の主要産業が革なめしだったのですが、革製品はとにかく臭い!
たくさんのクレームが上流階級のご婦人達から入ったため、ある革職人が香水付きの革手袋を商品化したのです。
それが大人気となり香水ブームが到来します。
南仏特有の香り高い花々の産地だったこともあり、香水産業がみるみる発達していきました。
現在では、世界の香水の収益の10パーセントを占めるという、香水の首都となりました。
[2]フラゴナール香水博物館の美しい香水物語
パリ Opéra駅(オペラ駅)からほど近い場所にある、Musée du parfum-Fragonard(フラゴナール香水博物館)では、香水の製造過程で用いられる貴重な歴史的オブジェ(蒸留器)や香水瓶、ラベルなどが興味深くそして美しく展示されています。
こちらはなんと見学無料!フラゴナール社の寛大さと香水に対する情熱が伝わってくる素晴らしい博物館となっています。
レセプションで見学の希望を伝えると、フランス語か英語でガイドの方が説明してくれます。
(その他の言語は要予約・日本語も可!)
さてフラゴナール社は日本では知名度があまりありませんが、南仏グラース発祥・1926年創業の老舗パフューマリーです。
18世紀のロココ時代を代表する画家のひとりジャン・オノレ・フラゴナールに由来して名付けられたパフュームメゾンなのです。
地下に案内されると見えてくるのは、重厚感のある内装と薄暗いセンシュアルな佇まい。もともと19世紀に劇場だった場所というのだからこの雰囲気には頷けます。
まずは視覚で楽しむ香水博物館
香水の原料は地域や気候によって様々。
ここでは映像を使って世界各地で採取される原料を説明してくれます。(日本で注目されているのは柚子、金木犀の二つ。日本の代表的な香水の原料だそうです!)
こちらは大変貴重な蒸留窯。花などの原料を蒸留することによって香りのエッセンスを抽出する装置です。
1リットルのバラのエキスを抽出するのにおよそ3トンのバラが必要とのこと。
当時の天然の香水がどれほど貴重だったか分かります。
また、ラベンダー以外の花は今でも手で摘んでいるそうなので、3500人以上もの雇用を生み出しているグラースの香水従事者には頭が下がる思いです。
調香オルガンと呼ばれる、フランスの調香師が調香しやすいように用いる香料を並べた台の展示です。
ずらりと並んだ小瓶の中には樹木や花の香りをそれぞれ分類したものが入っています。
調香師になるには植物学や化学などを学び、何千種類もの香料を瞬時に嗅ぎ分けられるという徹底した嗅覚を養います。
フランス国内でさえ調香師になるための学校はパリ、グラース、ヴェルサイユの3か所にしかないそうで、いかに調香師になるのが狭き門であるか想像できます。
フランスの調香師、パフューマーのなかでも極めて評価の高い調香師はnez (「ネ」鼻の意味。)と呼ばれます。
なんとこちらの国では画家、音楽家をしのぐ芸術家として称されることもあるようですよ。
ここでは時間ごとの香りの変化や原料に関する詳しい説明も受けられます。
今まで何となく好きだから…という理由で着けていた香水にも、性質の違うたくさんの香料が使われています。
一般的にトップノート、ミドルノート、ベースノートという3段階で時間の経過とともに香りが「グラデーション」のように微妙に変化していきます。
自分の選んだ香水が、いつ頃自分の一番好きな香りになり、どのくらい持続するのか改めて観察してみると香水を着けるのがもっと楽しくなるかもしれませんね!
美しい香水瓶とラベル
博物館内の見学も中盤を過ぎたころ、香水とセットとなる「香水瓶」の展示へとおもむきます。
フランスでは16世紀ごろから香水が流行り始めましたが、当時は大変高価だったので長持ちさせるために、光を通さない陶磁器の香水瓶が用いられていました。
また香水を身に着けることは王族や貴族の特権でしたので、お風呂に入る習慣のなかった彼らは特に動物系の強い香りを好んで使っていたそうです。
その中でもただ一人マリーアントワネットだけはお花の香りの香水を使用していたのは有名なお話です。当時としてはかなり垢ぬけていた感覚の持ち主だったようですね。
フラゴナール社は金属製のボトルを起用しています。ガラスの容器だと2、3年の使用期限のところを、金属製にしたことで7、8年まで使用期限を伸ばすことに成功しました。
香水瓶のラベルにはその香水の象徴ともいえるデザインが施されています。
現代でこそシンプルなボトルデザインが多く見受けられますが、20世紀初頭ではその時代を反映したアールヌーヴォーやベルエポックなどが描かれていました。
香水瓶ひとつとっても芸術と思わせるような美しいデザインが立ち並びます。
嗅覚を体験
最後にフラゴナール社の人気香水BEST5のご紹介を受けました。
日本では販売されていない香りもあるので、これぞフランス!というような香りも楽しめます。
[3]フランス人にとっての香水
Parfum のフランス語における定義は、仏仏辞典によれば「染み入るもの」というものです。
その人の脳裏や記憶や肌に染み込んでいくもの。
もちろん現在では体臭を隠すために香水を身にまとうフランス人はいません。
国を代表する産業の一つである香水。こちらでは自分が「そこ」にいた、という存在を示すためのツールになのだそうです。
パリの街中を歩いているとき、よく素敵な香りを身にまとったマダムを見かけます。
その明瞭とした存在感には思わず振り返ってしまうほど。
自己表現が大好きなフランス人。
彼らにとっては香水はファッションやユーモアと同じように、日常に無くてはならない自己表現のひとつであるのです。